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2023.07.05

Car-Tはがんを超えていくか?Novartis社他はイエスと言う

※本記事はEvaluate社の許可のもと、イミュニティリサーチが翻訳したものです。内容および解釈については英語の原文を優先します。正確な内容については原文をお読みください。

Car-T療法による自己免疫疾患治療が、いくつかのバイオテクノロジー企業や大手製薬企業グループから注目を集めています。

Car-T療法において静かに革命が進行中です。それは腫瘍学とは関係ありません。今やまるで特別の木になる実を容易に収穫できるかのように見えるので、多くの企業は、自己免疫疾患において新たな収益を生み出す道が開く可能性に賭けています。それは明らかにある1つの学術論文の威力です。

おそらく最も強いシグナルを発したのはNovartis社であり、最高経営責任者のVas Narasimhan氏は最近、「(自己免疫が)Car-T療法の最優先事項。当社は(リンパ腫や)多発性骨髄腫よりも免疫学を優先させている。」と述べました。この領域に注目しているバイオテクノロジーへの投資家にとって、最も注目すべき銘柄はCabeletta Bio社であり、他にも注目すべき銘柄があります。

Cabaletta社の科学諮問委員会にはGeorg Schett教授が含まれることに注目すべきです。狼瘡に対して抗CD19 Car-T細胞の利用を詳細に記述した科学論文を発表したのが、Friedrich Alexander University Erlangen-NurembergのSchett教授のグループであり、この研究こそ現在の熱狂を起こす大きなきっかけとなりました。

この論文では、以前の投薬計画では効果がなかった長期にわたる活動性全身性エリテマトーデスの患者5名について記述されています。CD19に対する自家Car-T治療を行うと臨床症状が改善され、被検者5名全員において寛解が3ヶ月で始まり、8ヶ月間維持されました。

Novartis社はこの学術論文に関心を持っており、Narasimhan氏はグループの2023年第1四半期のアナリストへの電話会議で次のように述べました。「私共のCar-Tのチームは、これまでに見てきた非常に強力な事例報告を踏まえて、できるだけ早急に事業拡大できるよう24時間体制で取り組んでおります。」Novartis社のYTB323プロジェクトでは2023年2月に第1/2相狼瘡試験が始まっており、同社は他の臨床試験に進出することも計画しています。

B細胞主導型

この治療アプローチには科学的な意味があります。CD19はB細胞上に発現するタンパク質であり、CD19に対するCat-T療法は、急性リンパ芽球性白血病やびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫などのB細胞悪性腫瘍で承認されています。

したがって、同じ治療法はこの細胞型に原因がある腫瘍以外の疾患にも用いられる可能性があり、その最も明らかな例が狼瘡かもしれません。Schett教授は取材要請に応じませんでしたが、NEJMに別のレターを投稿しており、狼瘡は自己反応性B細胞に由来する自己抗体によって引き起こされることが知られているというロジックを述べています。

Cabaletta社のCD19を対象としたCABA-201プロジェクトは、狼瘡におけるSchett教授の成功を再現することを目的としており、米国のINDが承認されたばかりです。同社のパイプラインの残りの部分はキメラ自己抗体受容体T細胞と呼ばれるわずかに異なるアプローチで、このT細胞に特定の自己抗原を発現させておき、抗原特異的なB細胞の除去を引き起こすことを目的としています。

業界のパイプラインにおいて、狼瘡だけでなく、シェーグレン症候群、重症筋無力症、クローン病などに対する従来型のCar-T療法の重要な研究開発が明らかにされ、その多くは中国で行われています。また、Cabaletta社のCABA-201プロジェクトの要素の1つを提供したのは、中国のIaso Biotherapeutics社でした。

BCMAについても…

Schett教授のNEJMのレターにおいて、重要な点がもう一つ提起されました。MAbを用いたB細胞の単なる除去では、狼瘡の治療効果は限定的とのことです。教授はこれを、MAbがB細胞へ相対的にアクセスしにくいこと、または自己反応性抗体を追加で供給するCD20陰性の形質細胞(形質細胞は抗体を産生し始めたB細胞)がいるためであると考えています。

おそらく後者の理由で、多くの臨床試験では、CD19の代わりに、またはCD19に加えて、形質細胞上に見られるマーカーであるBCMAを標的としたCarがテストされています。これらには、米国の非上場企業であるCartesian Therapeutics社が第2相開発を行っている重症筋無力症治療法のDescartes-08プロジェクトが含まれます。

別の非上場バイオテクノロジー企業であるKyverna社は、1年以上前に、NCIが開発した完全なヒト由来バインダー配列をもつCD19 Carに関する権利のライセンスを取得し、その後、同種異系バージョンを開発するためにIntellia社と提携しました。しかし、2022年11月に自家使用に関するINDが承認されていますが、治験はまだ始まっていないようです。 腫瘍学の場合と同じように、バイオテクノロジー企業のウォッチャーは、大手製薬会社が常にもつ脅威に注目するでしょう。競合としてはすでにNovartis社が含まれているだけでなく、Bristol Myers Squibb社は狼瘡を対象としてNex-Tにより製造されたBMS-986353の第1相試験を開始しようとしているほか、Johnson & Johnson社は最近、契約はリンパ腫に限定されていたにもかかわらず、CBMGが視神経脊髄炎を対象にテストしているアセットであるC-CAR039のライセンスを取得しました。

この治療アプローチのいくつかの側面はまだ科学的に理解されていません。例えば、よく言われる免疫系の「リセット」に影響を与えて、免疫系にナイーブ細胞を再導入するためにB細胞集団を除去することが必要な場合、なぜこれはリンパ球除去のようなより単純な手順で達成できないのでしょうか。

腫瘍学においてはこの理由は説明できいます。つまり、一時的な除去では不十分であり、Car-T療法が成功するには、Car-T細胞がときには何年間も体内を循環して、悪性B細胞集団のチェックを続けて、長期間続く必要があるのです。Schett教授の論文では、Car-Tにより、「ナイーブでクラススイッチしていないB細胞受容体をもつ…(そのような)B細胞が再度現れた後でも」狼瘡を薬物なしで寛解させることができたと述べられています。

Car-T細胞を生成するために「遺伝子書き込み」を用いる非上場バイオテクノロジー企業であるTessera Therapeutics社の最高経営責任者であるMike Severino 氏が最近Evaluate Vantageに語ったところによると、Car-Tは「最後に残るB細胞に到達できるぐらいに他の方法より効果的です…自己免疫疾患のB細胞に打ち勝つ非常に効果的な方法であり、明らかに利益をもたらしますが、免疫系を完全にリセットするわけではありません。」

正式な臨床研究からデータが出始めるにつれ、Car-Tがどれだけ効果的か、また慢性疾患患者が化学療法にどのように対処するのかなどに、より多くの光が当てられるはずです。

ImmuniT Research Inc.

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